新しいブック
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15●ちまたの風白 桃 数ある果物の中でも白桃が何よりの好物だった夫が逝って15年の歳月が流れ、時のたつ早さをつくづく感じています。  平成8年の夏は猛暑続きで、仕事部屋にエアコンを設置して夫とともにポリ袋作りの内職に励んでいました。  7月20日午後、夫が「白桃とサワラのさしみを買うて来てくれ」と言うので、バイクを飛ばしてスーパーへ行ったのです。  約1時間で帰り、「白桃のいいのがあったよ。すぐむいであげようか、それとも冷やしてあげようか」と言いながら作業部屋の戸を開けると、夫が倒れているではありませんか。私はびっくりして腰が抜けて歩けなくなり、電話機まではっていって救急車を呼び倉敷中央病院へ。担当医の「お気毒ですがご臨終です。午後5時10分です」との言葉に、私は狂ったように夫にすがりついて泣いてしまいました。  あの世への旅立ちの時、手も握ってあげないで、私のいない間に…。夫は兵役中に広島で被爆していました。  先日、娘が白桃を買ってきて、「お父さん、食べてちょうだい」と仏壇に供えてくれました。「冷たい白桃をひと切れでも食べさせてあげていたら私も後悔しないのに…」と、涙を流しながら娘と語り合ったのでした。平成23年9月7日

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