新しいブック
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27●ちまた父の言葉を思い出す 私たちが幼いころは家族で夏の夜空を眺めた。この美しい月が私には今日までの忘れ得ぬ月となり、また心の糧となったのである。  1940年10月、稲刈りを目前にして母が農作業中の事故が原因で急逝した。全てが手作業の農業。兄は出征中で祖父母は70歳過ぎの高齢。妹2人もいたので、女学校1年生の私が学校から帰ると父を手伝い働いたのである。  稲の収穫時の満月の前後3日くらいは夜なべに適している。ある満月の夜、父が「今晩はよい満月だから、昨日刈っている稲を束にしてさお掛けにせんか…」と言い、私は父の言葉に従い夜なべに。晩秋の夜空をゆっくりと進む月を眺めつつ、父と語り合ってやり終えたのである。  父は「成せばなる成さねばならぬ何事も…」と信条を語ってくれた。終戦となり兄が帰還して私は嫁いだ。多くの試練にも出合ったが、月を見るとあの夜の父の言葉を思い出し乗り切ることができたのである。 平成24年9月26日

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