新しいブック
34/102

32●岡山市民の文芸恋の欠片掲載日:平成13年 昨年の秋、思いもかけぬ封書がポストに。私は自分の目を疑い今自分が生きているのかそれとも夢の国にいるのでは……、人の一生の短さと時の流れの早さを感じて現実へ。 暫くはその封書を持ったまゝ手が震え、そして大きく波打つ胸の鼓動。その字は昔懐かしい毛筆。私が終戦の年、女学校を卒業して実家の在る農協に勤めていた時、終戦となり内地航空隊より復員し、当農協に就職してきた一歳上の彼。若い二人の間には何時とはなしに恋の芽が、そして双方の親も納得の上で私の父は次男である彼を婿養子に迎えるべく結婚の日程も決めていた時、ビルマ戦線で戦死していた筈の兄が年末にひょっこり復員。 当時の法律では兄が結婚して実家を継ぐ事となり私達は家庭の事情で親から説得されればそれが自分達の宿命と諦めて涙ながらの別れを。当時岡山は全くの焼野ヶ原、現在の様な時代ならば二人で新居を持つ事も出来たが、又当時は双方の家としても私達の為に早速に分家等する財力も資材も無い時代。私の実家にはまだ妹二人も居て兄の結婚の為には一人でも小姑が少ない方がよく、私は現在の家に、五年前死別した夫と見合い結婚し、戦後故に幾多の苦難も乗り越えて二人の子供も人並みに教育成長させ夫々の道に巣立って行った。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です