新しいブック
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33 彼は私と同じ女学校で一級下だった方で、お兄様が戦死された方と結婚し二人の男子があり現在岡山市津島で幸な生活の由。そして山陽新聞の「ちまた」欄に私の拙文が時折採用されているのをみてお便り下さった由で今自分史を執筆中故に後日郵送するとの事だった。 振り返れば当時の淡い恋は手を握る事もなく別れが決定してからは私は退職し会うことも許されず、電話も無い時代で結婚日近く迄文通のみだった。その便りの中で彼の得意な詩二編は捨てきれずタンスに入れて持参。約三十年経て時効と思い夫に見せて青春を語った。 すると夫も中学校を卒業して国鉄岡山管理局に勤務していた当時を語り、夫も農家の一人息子故の運命に負けた由。お互胸の奥には未だ溶け切らない恋の欠片が残っていた。 現在五十余年の月日が流れて夫を亡くしてみて私の胸からは彼との流れた恋の夢は序々に遠ざかり、亡夫との四十八年間が胸中を占めていて、その愛情と絆の比重は何倍も高く夫との真の愛は忘れる事は出来ない。 これは長い年月家や家族の為に苦楽を共に生きてきた証であらう。 そして私は震える手で彼に返事を書き、これからも長寿で奥様とお幸にと、又私も愛せる人と結ばれて幸な人生だったと付け加えた。 今春彼の自分史が届けられた。私は早速にお礼の電話を入れたが若い当時の顔と容姿が浮びどうし

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