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76●岡山県 文学選奨応募作品宿命掲載日:平成25年 人間としてこの世に生を受け一度のこの人生に於て先の八年余に及ぶ戦争に於て自らの命を国の為に捧げた方々、又本土空襲等に依り命を失った方々は数百万人にものぼる。 私が嫁いで来た夫もその一人であり兵役中に広島で被爆した人であったが幸にも兵舎の中に居て兵舎と共に吹き飛ばされ体中に数ヶ所の大きな傷跡のある人でそれが為に希望に満ちて勤めていた国鉄広島鉄道局岡山工事事務所を退職させられたのであった。 今回はこの件は別にして継母との若き日の罪のドラマを綴りたいと思ったのである。私が嫁いで来た家の玄関を開けると真正面に見える児島富士(当地方では常山とも)と稱されているこの山には私の生命ある限り忘れることのできない父と登った思い出がある。 「父の愛」 昭和18年稲刈りを目前にした秋晴れの日曜日に父が「百合子握り飯でも作って常山へ登ってみるか……」と、私は嬉しくて早速祖父に卵を貰い卵焼辨当を作り自転車で出発。 私の実家は都窪郡茶屋町の大農家であった。

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