新しいブック
88/102

86となったのである。 家に帰っても戦死した兄の話ばかりで祖父母は泣き夜が更けていったのである。 「兄の復員で家族間の争い」 終戦から約半年経た21年2月に戦死していた筈の兄がひょっこりルンペン姿で復員してきたので家族一同ビックリ、そこには実母の姿は無く知らぬ小母さんが「この人は誰だ。」と、強い軍隊口調での詰問に始り、父が紹介しても落付いて聞き入れず喧嘩になろうかというやりとりになった時、それを靜めたのが祖父であった。 祖父は大正十年~昭和八年迄、茶屋町の町会議員を務め町内の世話は勿論、家庭内にも波風を立てるようなことはしない人で祖父は兄に「お前は生きて帰れただけでも幸せと思え。この家と田畑を守ってよく働いてくれたのはこの人だ。文句があるならお前が出て行け。」の一喝にさすがの兄も後退するしかなかったのである。 公職追放令にもかゝっている兄は容易に職にも付けず農作業をするしかなく毎日の作業に於ても両親との争いが絶えることが無かったでのある。 三月のある日父が「百合子、お前は三月末で農協を辞めて和裁を習うて早う嫁に行ってくれ。」と

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です