tsukiyo
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9桜ふぶきさあさ、踏み出そう、この一歩辛しんぼう抱する樹に花が咲く」 ブランコをこぎながら少年が歌っていた。ブルージーンズに黄色のとっくりセーター。短みじかくかりあげた髪かみが風にゆれていた。(あっ、母さんが編あんだ、ぼくの、あのセーター)「心にいつも太陽を辛抱する樹に花が咲く」 「ゆう、ゆうちゃん」 ぼくを呼よぶなつかしい母さんの声がした。 はっと、ハンドルをにぎってふりむくと、そこには見知らぬビルが建たっていた。 「さあさ、踏み出そう、この一歩」 アクセルをふむと、はらはらはらっと、花びらが舞まって来た。桜はなふぶきの中にきらきらと、母さんのほほえみがこぼれていた。 するすると、ぼくの車は桜ふぶきの中をすべりだした。
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